「冷徹な実力者」がなぜネットで萌え対象に?2026年、金与正をめぐる奇妙な「かわいい」現象の裏側
金 与 正 かわいい――日本のSNSやネット掲示板で、定期的にトレンド入りするこの奇妙なワードをご存じだろうか。北朝鮮の最高指導者、金正恩総書記の実妹であり、対外的な強硬発言を連発する彼女に対し、ネットユーザーたちが「ギャップ萌え」や「ツンデレ」といった文脈で消費する現象が続いている。冷徹な政治的発言と、時折見せる表情のギャップが、一部の若者層に奇妙な形で受容されているのだ。
国際社会が核開発や軍事挑発に神経をとがらせる一方で、日本のネット空間では金 与 正 かわいいという言説が、ミーム(ネット上の流行)として一人歩きしている。このギャップは単なる悪ふざけなのか、それとも現代のメディア社会が抱える病理なのだろうか。専門家への取材を交え、その背景を探った。
毒舌と冷徹な眼光がなぜ「ギャップ萌え」に変換されるのか

金与正氏といえば、韓国や米国に対する容赦ない罵倒や、冷ややかな視線が印象的だ。しかし、日本のネットコミュニティ、特にX(旧ツイッター)やTikTokでは、その「冷たさ」こそが魅力として解釈されている。「叱られたい」「あの冷たい目で見下されたい」といった、アニメキャラクターに対するようなファンタジーが投影されているのだ。
心理学的に見れば、これは「認知の不協和」を解消するための防衛本能に近い。圧倒的な恐怖や理解不能な存在を、自分たちの理解できる「萌え」の文脈に落とし込むことで、無意識のうちに恐怖を和らげようとしているのだという指摘もある。
2026年のSNSカルチャーと「独裁国家のアイドル化」

2026年現在、ショート動画のアルゴリズムはより洗練され、ユーザーの好みに合わせて過激なコンテンツを配信し続けている。その中で、金与正氏の演説シーンや、兄の後ろに控える姿を切り取ったMAD動画(二次創作動画)がバイラル化しやすい環境が整ってしまった。
かつて政治風刺は新聞の風刺画やテレビのバラエティ番組の領域だった。しかし今や、AIによる画像生成や動画編集ツールが普及したことで、誰もが彼女の表情を加工し、BGMを乗せて「かわいいコンテンツ」として再生産できる。テクノロジーの進化が、政治的文脈の脱色を加速させているのだ。
地政学的リスクの希薄化が生む「消費される恐怖」

日本にとって北朝鮮は、ミサイル発射や拉致問題など、直接的な脅威であり続けている。それにもかかわらず、なぜこのような軽薄とも取れる消費のされ方が許容されるのか。そこには、若い世代における「地政学的リスクの日常化」がある。
生まれた時からJアラートが鳴り響き、ミサイル報道が日常茶飯事だった世代にとって、北朝鮮は「リアルな恐怖」というよりも、テレビの向こうの「記号」に近い。記号化された存在だからこそ、キャラクターのように愛でるハードルが下がっているのだ。
北朝鮮側のメディア戦略?意図された「露出」の謎
一方で、北朝鮮側がこの「キャラクター化」を意図的に利用しているのではないかという分析もある。金与正氏が公式行事で見せる、時に感情的で、時に洗練された立ち振る舞いは、徹底的に計算された演出の一部だという見方だ。
恐怖政治の象徴であると同時に、親しみやすさや人間味を(歪んだ形であれ)外の世界にアピールすることで、国際社会からの警戒心を和らげる効果を狙っている可能性がある。彼女の「かわいい」という評価は、実は平壌のシナリオ通りなのかもしれない。
ネットミームの危険性:エンタメ化される独裁体制の現実
だが、この現象を単なる「ネットの悪ふざけ」として笑い飛ばすわけにはいかない。北朝鮮は現在も深刻な人権侵害や、国民に対する抑圧を続けている独裁国家だ。その権力の中枢にいる人物をアイドル視することは、彼らの犯している罪を免罪することに繋がりかねない。
「かわいいから許せる」「面白いからいい」という感情は、本質的な問題から人々の目をそらす。エンターテインメントの皮を被ったプロパガンダに、私たちは知らず知らずのうちに加担している可能性があるのだ。
私たちは彼女の「何」を見ているのか:情報化社会の歪み
情報が氾濫する現代において、私たちは物事の「文脈」を失いがちだ。金与正という政治家が背負う歴史や現実の背景を無視し、画面に映る一瞬の表情だけを切り取って消費する。それは、極めて現代的な情報の受け取り方と言える。
画面の向こうの彼女がどれほど魅力的に見えたとしても、その背後にある現実から目を逸らしてはならない。ネットのトレンドワードに躍る「かわいい」の文字は、私たちがメディアの情報をいかに都合よく解釈しているかを示す、鏡のようなものなのだ。 (出典: 金 与 正 かわいい(Yahoo!ニュース))